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日本語で読めるクラリネットのきちんとした文献は、残念ながらとても少ない。
信頼できるものと言えば、アンソニー・ベインズの『木管楽器とその歴史』、それにオスカール・クロルの『クラリネット』(いずれも音楽之友社)の2冊くらいなもの。日本語版『ニューグローブ音楽事典』にも詳しく載っているが、手元にある人は少ないはずだ。 そんな事情からか、クラリネットの歴史について少しでも深く知っている人に出会うことは、プロや音大の先生も含めて極めてまれである。 原因は、もちろん、外国語が不得手な人が多いからだろうと思う。それとも、知識は飯のタネにならないからかな? 私の場合は、好きなクラリネットのことなら少なくとも英語版の基本文献は読みたいと思い、ネットで海外から取り寄せている。 英文を読むのはもちろん一苦労だが、努力はきっと報われる。なんたって、今まで知らなかったことが沢山たくさん書かれているのだから。 そして数冊を読み終えてみたら、驚いたことに、少なくとも私が知っている周りのクラリネット吹きの誰よりも(あえて言えば今まで会った日本のプロ奏者の誰よりも?)クラリネット史に関しては「博識」な人間になってしまったようなのだ。思い込みかも知れないが、今までのところはそれを実感している。 これは自慢でも何でもなく、つまりは、それほどこの国では言語の壁が厚く、基本的な情報でもまだまだ伝わっていないことが多くある、ということなのだろう。 ということで、少なくとも音大でクラリネットの指導に当たるような先生なら、学生に訳させてでも知っておくべき基本的な文献を、畏れ多くも以下にご紹介してみたい。 英語版で最もポピュラーな本は、Jack Brymerの「Clarinet」とColin Lawson編著の「The Cambridge Companion to the Clarinet」。いずれもクラリネット全般を解説した本だが、後者はそれぞれの専門家が分担執筆し基本中の基本文献と言える。 歴史をさらに詳しく知りたいと思う人はColin Lawsonの「The Early Clarinet」がお勧め。バロックからクラシックまでのクラリネットの歴史(一部それ以降も)と奏法について、100ページちょっとに要領よくまとめられている。 さらに専門的な本には、Albert Riceの「The Baroque Clarinet」と「The Clarinet in the Classical Period」がある。図版や譜例がたくさんあり、いろいろな記述には出典が明示されていて信頼性もとても高い(英文は読みやすい)。今のところ、英語で読めるこのジャンルの専門書でこれ以上詳しいものは知らない。 19世紀のベームクラリネット以降の発展史、とくに近代ドイツクラリネットの歴史について知りたいと思い、あれこれ探してみたが、なぜか文献は非常に少ない。前出クロルの日本語版はこの点で数少ない文献の一つだが、なにせ分量が物足りない。 「古典的名著だが、いかんせん古い!」(N.シャックルトン卿)と聞いていたGeoffrey Rendallの「The Clarinet」は、私が知りたいと思っていたベーム式前後の歴史、とくにアドルフ・サックスの貢献についてしっかり触れていた。でもこの本、日本ではまず手に入らない(私はeBayで入手した)。本書には初期のクラリネットのマウスピースやキーの作りなど、他の本で隔靴掻痒だった詳細なディティールがイラストで示されていたりして、1950年代の初版なのに今読んでも新鮮だ。でも、表紙に載っているバロッククラリネットの写真は、現在はシャリュモーとされている楽器。いろいろ注意して読まないといけない本でもある。 以上は、どちらかと言えば教科書的な文献ばかりだが、クラリネットを吹いた人間にスポットを当て、そのドキュメントを伝えながらクラリネットの歴史を通観するのが、Pamela Westonの『Clarinet Virtuosi of the past』だ。 この本では、クラリネット史に大きな足跡を残した名手たちの姿が、確かな資料だけをもとに生き生きと描かれている。それと同時に、当時の楽器や作品などについてのトリビア的な知識(上記に紹介した文献の隙間を埋めるようなちょっとした知識)の宝庫でもある。個人的には、どの本よりもまずこの一冊から読んでみることをお勧めしたい。 続編に『More Clarinet Virtuosi of the past』があり、本編で紹介できなかった人たちを取り上げている。この2冊はセットで読むべきもの。さらに続編に『Yesterday's Clarinettists : a sequel』があり、こちらは文字通りの紳士録で、クラリネット人名事典としてこれ以上のものは今後出ないだろう。 この他、特に米国の大学の先生たちが「名刺代わり?」に出したようなハウツーもののクラリネット本が何冊かあり、その中で歴史的なことに触れたものもあるが、資料的な価値があるものにはまだお目にかかったことがない。 また海外の雑誌、インターネットなども役に立つが、孫引きの氾濫に辟易することの方が多かった(失礼、私もそうでした!)。海外盤CDのブックレットは有益な資料になる。国内盤は、歴史的な記述については、ごく一部のライターと音楽学の研究者のもの以外は、残念ながらあまり信用できない。 蛇足ながら、上に紹介したような本の巻末には大抵、小さな文字で注釈がついている。この注釈が侮れない。知りたいことが芋づる式に拡がっていくきっかけをこうした注釈から得ることが私の場合は多かった。
by hornpipe
| 2007-11-13 22:40
| クラリネット
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