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作曲家・菅原明朗のことを調べていて改めて愕然としたのは、日本の近代の作曲家を自分はほとんど知らず、代表的な作品もほとんど聴いたことがない、ということだった。
たとえば、以下に1920年前に生まれた主な作曲家の名前を挙げてみると…… 滝廉太郎 山田耕筰 信時 潔 箕作秋吉 下総皖一 清瀬保二 諸井三郎 橋本國彦 金井喜久子 池内友次郎 大澤壽人 平尾貴四男 深井史郎 松平頼則 渡邊浦人 吉田隆子 尾高尚忠 安部幸明 髙田三郎 早坂文雄 伊福部昭 小山清茂 小倉 朗 柴田南雄 この中で、はっきりと聴いたと断言できる曲の数は(滝と山田の歌曲を除けば)、お恥ずかしいはなし、十指に満たないかも知れない。小説や詩の世界とは比べるべくもなく、美術の世界ですら、なじみの画家や絵はもっと多いのに……。この「落差」は一体どこから来るのだろうか? これが、現代の、つまり私たちと同時代の作曲家たちとなると、様々な機会にその音楽を耳にし話にも聞いたりするので、多くの作曲家たちの輪郭はおぼろげにでも掴むことができる。と言うより、日本の作曲家といえば、戦後に活動を始めた人たちしか今までの私の眼中には無かった、といってもよい。 そんな音楽的怠慢を、この歳になるまで引きずって来た私に喝を入れてくれたのが、このブログにも書いた祖父・菅原明朗の遺著であり、そしてもう一人、音楽評論家の小宮多美江さんである。 ~・~ ~・~ ~・~ 小宮さんは評論活動だけでなく、「音楽の世界社」という小さな出版社をお一人で経営し、上のリストでいえば、清瀬保二、平尾貴四男、吉田隆子、安部幸明など、戦争をはさんで自らの音楽的ピークを築き上げた世代の作曲家たちの紹介につとめ、彼らの作品の楽譜や書籍を出版している。 大正デモクラシーの時代に青春期を過ごしたこの世代の作曲家たちの中には、新しい芸術運動に身を投じて社会との接点を求め、同時に、日本人が西洋の音楽語法で作曲する意味を問いかけながら、自分のスタイルを築く努力をした人が多かった。 往々にして「民族主義派」と一括りにされる彼らの音楽は、(伊福部昭が典型だが)たしかに日本的である。しかし作曲家でもある小宮さんは、日本古来の様々な音階や西洋音楽の教会旋法などを研究し、自らの新しい語法を生みだそうとする作曲家たちの真摯な努力のあとを、そこに見ようとする。そして次のようにいう。 「六〇年代以後、一般に前衛といわれ、現代音楽といわれる時代がつづく。その時代の書法も、私たち自身の音楽史をたどってみればすでに、松平頼則や清瀬保二らにおいて、戦前から試みられている流れである。(中略)清瀬保二についていえば、一九五七年の『木管とハープのための五重奏曲』第二楽章は、かれ以後につづく作曲家のその後の時代を予測させる響きを求めている。ここをつかんでおきさえすれば、以後のたとえば武満徹の音楽までを十分に見通すことができる(後略)」 (『受容史ではない 近現代日本の音楽史』小宮多美江・音楽の世界社) ちなみに、清瀬保二は武満徹の師である。 小宮さんは、さらにこんな大胆な(?)予想も行う。 「西欧において、いわゆる調性和声が教会旋法から長短調の調へと組織され、三度を協和音と認識し、調性和声が組織されたその過程(かの地では数百年の歴史があったわけだが)と似たような過程が二〇世紀の日本に起こっていると思うのである。それがいわゆる機能和声に匹敵する組織的な旋法的調性和声に抽象することができるかどうか、それは膨大な作品の集積から、これから行われることだろう。その過程では、清瀬や伊福部のように純粋に民族的な立場から出発したかどうかは絶対的な問題ではなく、むしろ圧倒的大多数をしめるいわゆる和声學を学んだ上で創作の道を歩んだ作曲家の作品からも、同じように抽出されてくる。(後略)」(同) つまり、将来、日本の調性音楽には機能和声に匹敵する(日本に特有の)旋法的な調性和声の体系が生まれる可能性がある、といっている。 ほかの専門家たちがこれをどう見るかは分からないが、小宮さんのこうした立場は、日本の西洋音楽の歴史を編年体で記述し、時代が下るにつれて進歩して来たかのように錯覚させるこれまでのものとは大きく異なっている。 考えてみれば、我々はバロックから現代までの西欧の作曲家たちを、単純な「進歩史観」で判断したりはしない。たとえ作曲技法がどれほど複雑化して行ったところで、音楽の価値はまた別のものなのである。 戦前から今日までの作曲家たちの点を線でつなぐ努力をしつつ、それぞれの時代に生きた証でもあるその音楽を正当に評価する努力をして行きたいと思う。 ※小宮多美江さんの仕事については、こちらをクリック。 音楽の世界社
by hornpipe
| 2012-02-19 10:22
| 音楽一般
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