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その楽器を演奏する人にしか分からない「身体感覚」というのがある。
クラリネットで言えば、息とリードと楽器の反応が一体化したときに感じる心地よい楽器のレスポンス。あるいは、ほかの楽器よりも断然優れたピアニシモ能力を、オケの隣りのファゴット相手に仕掛けたときの快感(?)。 というのはアマチュアの私レベルの身体感覚なのであって、これが超絶技巧を駆使できるプロ中のプロには、まるで別の身体感覚を伴った異次元の世界が見えてくるのだろうと想像する。 前にもこのブログに書いたが、リストやバラキレフ、ゴドフスキーなどの超絶的なピアノの世界は、音楽的な表現の追求というよりは、この楽器が要求する「身体運動」を極限まで追求したいという(自虐的な?)欲望から生まれたものではないだろうか? そんなことを考えると、音楽芸術の歴史、少なくとも演奏史に時代を画す重要な作品の歴史というのは、それを演奏した人たちの「身体感覚」の視点から新しく書き著わすことが出来そうに思える…… などと思っていたら、本当にそんな本に出会ってしまった。 著者チャールズ・ローゼン(1927~)の経歴がすごい。 20代前半にマルティヌーとドビュッシーのエチュードを世界初録音し、同じ時期にプリンストン大学でフランス文学の博士号を取得。CBSなど大手レーベルに夥しい録音を残す世界的ピアニストであり、傍らフランス文学の大学教授で、著述家でもある。 しかし、本書の面白さはこの経歴以上だと思う。 大作曲家とピアノとの関わり方、20世紀の巨匠たちのテクニックの秘密、録音にまつわる様々なトリックの「暴露」、またバッハからベートーヴェン、リスト、ショパン、ブーレーズやエリオット・カーターに至る古今のピアノ作品の解釈やエピソードなど、どれもが初めて読むことばかりだ。 かのエドワード・サイードが「音楽について物を書く人間で、ローゼンのような才能をもつ者は他にいない」という言葉を寄せている(ということからも推測できるように、偏差値的レベルもやや高い本)。 『ピアノ・ノート』チャールズ・ローゼン著(みすず書房・2009年9月第1刷・3200円)
by hornpipe
| 2010-06-03 22:56
| 音楽一般
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